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レオナルド・ダ・ビンチ「白貂を抱く貴婦人」の謎

序章

レオナルド・ダ・ヴィンチの現存している油彩画で真筆とされるものはわずか10数点とされ、「白貂を抱く貴婦人」は知られざる傑作、最も美しいレオナルド・ダ・ヴィンチの女性肖像画と言われてます。当時のミラノの宮廷で“花のように美しい”と称えられたチェチリア・ガッレラーニをモデルにしたといわれ、「スフマート」と呼ばれるレオナルド独自の陰影表現や迫真的な女性の内面描写において、「モナ・リザ」に先駆け、「モナ・リザ」へと受け継がれていくという、革新的な特徴をそなえた作品です。

 

「白テンを抱く貴婦人」レオナルド・ダ・ヴィンチ

1490年頃 油彩・板

ポーランド・クラクフ、チャルトリスキ美術館所蔵

 

第一章

問題提起

「白テンを抱く貴婦人」を見たとき、ふと次のような疑問が湧いてまいりました。

1)髪形の不思議
髪形はどうなってるのでしょう。頬から顎へ向かってその後どのようになっているのでしょうか。

2)眉にかかる刺繍模様
その不思議な髪形を固定する黒い紐の下、眉あたりに黒い紐とほぼ平行して走る肌色の刺繍模様はいったい何でしょうか。

そんな疑問を胸にチャルトリスキコレクション展へいってまいりました。果たして謎は解けるのでしょうか。

 

第二章

展覧会場

チャルトリスキコレクション展、他のものには目もくれず、一目散にチェチリアの下へ・・・・。
やっと間近にチェチリアちゃんにお会いすることが出来ました。
薄暗い照明の中、ガラスのケースに収められ、警備員に守られる姿は少々可哀想でもありました。
まず私の目線に飛び込んできたのは彼女の顔ではなく、コスチュームの黒いリボンでした。
普段は少し見下ろし気味に絵画は見るんですが、遠くからも見えるように展示してあり位置が少々高めだったため、真近までよって見た私の目線にまっ先に、袖のリボンが飛び込んだのでした。

「何じゃ!この真っ黒なリボンは・・・・!!」

顔やコスチュームの陰影にこだわり、空気の層を描き出すのに腐心したレオナルドにしてはなんの注意も払われずに、ただそこには物質としての黒い絵の具が置かれているのです。

「こんなはずじゃなかった・・・・。」

「背景のベタ塗りのブラックは何なんだ・・・・。」

人の視線のこれ以上の浸入を拒むかのように立ちはだかる物質としてのブラック!
絵描きの性とでも申しましょうか、絵を見るときは「ここは私だったらこう描きたい、こうしたい。」といった目でつい見てしまうのです。
チェチリアの左肩に降り注ぐ光線はその肩と青いコスチュームの間にあれほど鮮明な細い影を落とすでしょうか・・・・。
また、鼻の下に落とす影はあれほど暗くはないはずです。顎の下の影、右肩の影と比較すると明らかに暗すぎます。顎には胸に反射して返す光まで見事に表現されているのにとっても残念なことです。
後年、誰かによって加筆されたに違いありません。

 

第三章

図録からの抜粋

後年の加筆については、チャルトリスキコレクション展の図録にも触れられておりました。その部分を抜粋して紹介したいと思います。

背景全面に対する加筆の塗りはおおむね均質な黒塗りの薄い層であり、色彩のトーンに抑揚を付ける意図は全くなく、人物に対し平坦で落ち着いた背景を与えようとするものであったことが確認される。この加筆者は人物像の周縁に絵の具を注意深く塗り延ばしたが、さまざまな小さなミスを犯しており、人物像の一部に重なったり、または塗り残しをしたために、そこから下の背景色が垣間見えたりしている。実のところ、この黒い加筆の層はチェチリアの肌を露にした左肩の輪郭のごく微細な部分を覆い、まさに最も光を浴びている部分の、見事な素描のラインを乱しているのだ。とりわけ重要であるのは、人物像と上塗りの間に残された相当数の空隙部分の発見である。立体顕微鏡によって、右肩、左袖の周縁うなじに垂れる編み髪の輪郭、そして頭の上部周縁部分に幾つかの塗り残しがあることが判明し、それらの部分を注意深く吟味した結果、以下のことが示唆された。すなわちオリジナルの背景は中間的色彩の灰青色で、人物像に向かって右側ではより明るく、また左側ではより暗くなっていたということである。背景の色調に与えられた変化は光の方向からいって、想定しうる通りの変化であった。光は画家の右肩上方から差し込み、画面奥の左の方へと影を落とすのである。

加筆者がこの絵の背景に新しく塗った輝く黒色ワニスの効果は相当に目立つものであったに違いない。そのため、彼はワニスを用いた時点で沈んでしまった女性像を際立たせようとさらに努力を続け、より濃い色で上塗りをして人物像を強化することとなった。チェチリアの首にかかる黒いビーズの幾つかと、頭髪の飾り網目の大部分、そして衣服のリボンや結び目は黒、あるいは濃い茶色の絵の具で加筆された。・・・・と同時に、細かな筆致で赤色を加えることにより唇を明瞭な形に研ぎ澄ませ、鼻の先端には茶色の陰影をいくらか添えて、最大限はっきりとその形を確定づけている。このほか、両眼には微小な光の点が、頭髪の分け目には明るい肌色が追加された。また髪の毛が両側に分かれた部分は、濃い茶色の陰影によって暗くされているのである。

きわめて数多くの言及を招くこととなった加筆は、顎の辺りとその下にある、帯状の暗い琥珀色である。15世紀末には、おおかたの髪をうなじに集めて馬の尾状にまとめつつ、顎の周りに何本かの束ね髪をあしらうのが流行していた。チェチリアの場合、頭髪は目の細かいネット(ベール)で非常にしっかりと纏められており、金糸編みを施したネットの縁が額と顔の両側面を横切っている。不幸なことに、顎を包む細い束ね髪は乱暴な上塗りを被ったのだった。

 

終章

憤りとともに

 ・・・・と言うことで、相当に乱暴な加筆がされたことは間違いなさそうです。修復なら許せも致しましょうが、「加筆はまずいんじゃないの!」て気持ちでいっぱいです。しかしこれでやっと白貂美人の謎も終焉を迎えることが出来そうです。

 さて、あの頬から顎にかけての髪形は本来顎関節の辺りまででフェイズアウトしていたんではないでしょうか。眉の辺りの金糸編みの施されたベールは、その頬から顎にかけての髪を包み込み、顎の下で交差してさらにうなじに集めたセンターパーツの髪をまとめて包み込んでいるのでしょう。実際の作品では会場の照明が暗く、しかも距離をおかざるを得ない状況ため、確認することができなかったのが残念ですが、図録でのチェチリア頭部の拡大図では、頬にほぼ垂直に走る金糸の刺繍模様の痕跡をたどることが出来ます。頬にかかる髪の周縁部も顎の辺り同様に、濃い茶色で加筆された兆候が見られます。あたかも金糸の刺繍模様を消し去るかのように・・・・。

ですから、髪の毛自身は顎を経由して後頭部までは回り込んではいないのです。ちょうど頬から顎関節辺りで収束しているのでしょう。そこから先は金糸編みを施したベールの縁だけががうなじに回り込み、馬の尾状にまとめられた後頭部を固定していたのだと思います。ベールの形状は三角巾にちょっと長めの紐がついたような形のものだと推測します。

金糸刺繍の紐が交差する顎の辺りの表現は、絵画技術的には非常にナイーブな表現になりそうです。描きすぎるとあまりにも説明的すぎますし・・・・。しかし、加筆者にはレオナルドのような根気も、明確なコンセプトもなく、この仕事をこなしたのでしょう。

「金糸の刺繍模様!薄手のベール!ってか。メンドクセーナ!!テクニックないし・・・・、給金安いし・・・・。焦げ茶色でも塗ってごまかしとくか・・・・。」ってな感じ・・・・。

 「世界の美術遺産になんてことすんのじゃ〜〜〜〜!!」と言ってやりたいものです。

しかし名画であることには変わりありません。今にも動きだしそうな白貂。声を掛けると振り向きそうなチェチリア。その豊かな表情が存分に表現され、500年をこす歳月を超越した感動を与えてくれたことは間違いありません。

・・・・と言うことで、この件については推測を交えてのお話になってしまいましたが、一件落着ってことに致したいと思います。

ただ、皆さまのご意見を拒むものでもありませんので、掲示板などにはどんどん書き込んで頂いて結構です。

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